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牧野出版:翻訳家じゃなくてカレー屋になるはずだった/金原瑞人

翻訳家じゃなくてカレー屋になるはずだった

▼ 誰も来られない図書館 ▼

とにかく妙な人ではあったが、翻訳に関してはとても良いセンスを持っていた。たとえば、"There is no choice"という文をみて、「ぜいたくはいってられない」とさらりと訳してしまうような人だった。翻訳のセンスというよりは日本語のセンスにすぐれた人といったほうがいいかもしれない。

▼ 男なの?女なの? ▼

終助詞のない欧米の言語では、会話文でその語り手の性別を判断するのは難しいことが多い。だから会話のあとに必ずといっていいほど、"he said""she said"といった但し書きがつく。 * アメリカでも、そういった付け足しをうざったいと感じた作家がいた。たとえばヘミングウェイ。ヘミングウェイは、「ハードボイルド(固ゆで)」と呼ばれる文体で作品を書いた作家として有名だが、その特徴は、感情表現をとことん抑え、無駄な部分を徹底的にそぎ落した客観的な描写にある。非常にきびきびした、小気味のいい文体といっていい。だからヘミングウェイは、できるだけ"he said""she said"を省略しようとした……その結果、誤訳を生むことになってしまった。"he said""she said"抜きで会話文が続いていくと、たまにだれがしゃべってるのかわからなくなってしまうのだ。だから今までのヘミングウェイの翻訳では、発話者を間違えて訳している場合があるというのは定説になっている。とはいえ、それは日本人に限ったことではなく、英語圏の人でさえよく間違えていることがあるらしい。

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プロフィール

雪男

Author:雪男
Unidentified Mysterious Animal協会東京支部に所属するルポライター。記憶の一部を喪失し、「Eコース」の診療を受けつけてくれる精神クリニックを探している。

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