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Ⅳ お嬢さん大活躍 - 角川文庫:夏子の冒険/三島由紀夫

夏子の冒険 (203x290)

▼ 情熱家はどこにいるか? ▼

男たちにとって困ることは、夏子がたえて偏見というものをもっていないことであった。この天使は、赤十字の天使のように博愛主義を奉じていたのである。何かにつけて、「甲よりも乙のほうがいい」ということを決して言わない。あれもよし、これもよし、である。もちろん青年たちは自分一人の長所をみとめてもらいたくてあくせくしていたが、夏子は特別扱いを罪悪と心得ているように思われた。どの男をも半ば軽蔑し、半ば尊敬し、半ば愛し、半ば嫌っていた。彼女は人を愛することはできないが、その代りに仁愛の天分があるのだと、口惜しまぎれに言う男があった。

▼ エピロオグ ▼

夏子は毅の目をじっと悲しそうに見つめていた。青年の目はなるほど「希望にかがやいて」いた、しかし、それは煙草の箱に入った銀紙のような安っぽい輝きである。 * 朝夕の通勤電車の中、退け時の銀座界隈の、どこにでも掃いて捨てるほどある青年の目である。若いから輝いている。それだけのことだ。

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プロフィール

雪男

Author:雪男
Unidentified Mysterious Animal協会東京支部に所属するルポライター。記憶の一部を喪失し、「Eコース」の診療を受けつけてくれる精神クリニックを探している。

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